竹久夢二

 葉子さん。  あなたの愛らしいノートをお返しする時がきました。  絵を画くことは少しも悪くなかったのです。ただ、画く時でない時に画いた事だけがいけなかったのです。あなたが私のために花を摘んで下さったことも、橋の上から川へ流したことも、みんな私は知っています。あなたの心づくしの花束は、私の病室の窓の下を流れる水におくられて、私の手に入りました。私はどんなにあなたのやさしい親切を感謝したことでしょう。  安心して下さい。私の病気はほんの風邪に過ぎません。次の月曜日からまた教場でお目にかかりましょう。  葉子さん。  どうぞこれからはもっと善い子になって下さい。他の稽古の時に絵を画いたりしないような、そしてお友達に何を言われても、好いと思ったことを迷わずするような、強い子になって下さい。 それでは       さようなら